新しい職場の最初の数か月は、分からないことが多くて当然の時期です。
ただ、中途で入った人には、少しやっかいな事情があります。「できる前提」で見られやすいことです。新卒なら「知らなくて当然」の期間がありますが、中途にはそれが短く、周りの同年代はすでに何年かの経験を持っています。
その結果、分からないことそのものより、「こんなことも知らないのか」と思われそうで聞けないことのほうが、つらくなります。
この章では、その状態を抜けるまでの過ごし方を扱います。
3か月の考え方
ここで書く「1か月目・2か月目・3か月目」は、決まった日程ではなく、順番の目安です。会社や仕事によって、早くも遅くもなります。
1か月目:覚える。聞ける期間だと割り切る
最初の1か月は、知らないことを聞ける期間だと割り切ってください。3か月経ってから同じことを聞くほうが、ずっと気まずくなります。
覚えるのは、仕事そのものより先に、次の3つです。
- 人の名前と役割。誰が何を担当しているか
- 社内の流れ。誰に何を出すと、何が進むか
- 言葉。会議やチャットで出てくる、社内の用語と業界の言葉
2か月目:任されたことを、確実にする
少しずつ、ひとりで担当する仕事が出てきます。
ここでは、範囲を広げるより、任されたひとつを確実にこなすほうが先です。全部を浅く分かっているより、ひとつを説明できるほうが、自信になり、信頼にもなります。
3か月目:売場でやっていた工夫を出す
仕事の形が見えてきたら、自分から動く場面を作ります。ここで、売場の経験が効いてきます。
当サイトで取材した、販売員から本社のマーケティング部門に移った方は、雑誌に掲載された情報を店舗に渡すとき、店舗の人が忙しいなかで、手元のスマートフォンからまっすぐ辿り着けるように、ファイルの名前の付け方まで決めたそうです。オフィスしか知らないと「流せば終わり」になりがちなところに、使ってもらって初めて意味があるという、売場にいた人の発想が出ています。
売場で、相手が使いやすいように何かを整えた経験。それは、どの職場でも出せる工夫です。
優秀な先輩の仕事を、真似ることから始める
仕事の覚え方で、いちばん早いのはこれです。
売場に入ったばかりのころを、思い出してください。売れている先輩の声のかけ方、商品の勧め方、たたみ方や並べ方。まず真似をして、それから自分のやり方を作っていったはずです。新しい職場でも、同じやり方が使えます。
- 「この人の仕事はうまい」と思う人を、一人見つける。 周りから頼られている人、説明が分かりやすい人
- その人のやり方を、そのまま真似る。 メールの書き方、資料の作り方、会議での話し方、仕事の順番
- 分からないところは、その人に聞く。 「◯◯さんのやり方を真似させてもらっています」と伝えると、たいてい喜んで教えてくれます
最初から自分なりの工夫を出そうとしなくて大丈夫です。真似ができるようになってから、工夫を足せば十分です。 上で書いた「3か月目に売場の工夫を出す」は、その順番のことです。
人間関係は、自分から作りにいく
仕事を覚えることと同じくらい大事なのが、人間関係を作ることです。
聞きたいことを聞けるか。困ったときに助けてもらえるか。任せてもらえるか。最初の数か月の進み方は、仕事の力よりも、周りとの関係で決まる部分が大きいと思います。
ただ、ここには正直に書いておきたい難しさがあります。中途で入ると、職場の人間関係はもう出来上がっています。 いつものランチの顔ぶれ、雑談の輪、仕事の頼み方。その輪に、あとから一人で入っていくことになります。
勇気がいることです。 はじめての転職なら、なおさらです。それでも、ここは踏ん張りどころです。最初の数か月で関係を作れるかどうかで、その後の働きやすさが大きく変わります。
大きなことをする必要はありません。売場で、新しいスタッフやお客様との距離を縮めてきたのと同じことを、小さく重ねます。
- 挨拶を、自分から先にする。 名前を覚えて、名前で呼ぶ
- 誘われたら、まずは乗ってみる。 ランチ、雑談、ちょっとした集まり
- 小さな頼まれごとを、気持ちよく引き受ける
- 教えてもらったら、お礼を言葉にする。 「助かりました」をきちんと伝える
- 自分から話しかけるきっかけを作る。 「◯◯について教えていただけますか」は、それ自体が会話の入口になります
人と向き合うことは、売場で毎日やってきたことです。初対面の相手との距離の縮め方を、あなたはもう知っています。
分からない言葉は、その日にメモする
覚えることのなかで、いちばん量が多いのが言葉です。
- 会議やチャットで分からなかった言葉は、その場では聞かずにメモする
- 一日の終わりに、まとめて調べる
- それでも分からなかったものだけ、翌日まとめて聞く
1か月続けると、自分専用の用語集ができます。聞く回数が減るので、聞くこと自体も気楽になります。
社内に残っている資料や議事録を読むのも効きます。先輩がどんな言葉で何を説明しているかが分かり、質問がまとまりやすくなります。
聞き方の型
「聞けない」の多くは、どう聞けばいいか分からないことから来ています。型を持っておくと、聞きやすくなります。
忙しそうな人には、まとめて聞く時間をもらうのも手です。「15分ほどお時間をいただけますか」と先に頼み、その時間にまとめて聞きます。売場で、忙しい時間帯を避けて先輩に声をかけていたのと同じです。
手応えを、自分で作る
第2章で書いたとおり、オフィスの仕事は手応えが遅く届きます。頑張っているのに何も進んでいない気がする時期が、多くの方に来ます。
だから、手応えを自分で作ります。
- 週の終わりに、できるようになったことを3つ書き出す。「チャットで報告の型を覚えた」「表の更新をひとりでできた」くらいの小さなことで構いません
- 3か月分たまると、自分が前に進んでいたことが、目で見て分かります
成果がすぐに出ない期間は、あらかじめ想定しておきます。法人営業なら、最初の数か月は種まきの時期です(法人営業への転職で最初に困ること)。
比べない
移ったばかりのころは、つい比べてしまいます。
- 前の職場でできていた自分と比べない。 売場では一人前だったのに、ここでは何もできない。そう感じるのは、場所が変わったからです
- 周りの同年代と比べない。 彼らには、その仕事での数年分の経験があります。比べる相手は、先月の自分です
副店長から人材業界に移った方は、移ったあとの壁について、アパレル時代との違いをこう話していました。アパレルでは、外の事情で売れないことが多く、自分ではどうにもならなかった。いまの壁は、
自分で頑張ればいけそう
だと。壁があることは同じでも、その種類が変わったということです。
聞いていた話と違ったら
入ってみて、聞いていた話と違うことはあります。
同じ方は、移ったあと業務量について、こう話していました。
だいぶ想定よりも業務量多かったな
小さな違いは、どの職場でも起きます。大事なのは、小さいうちに相談することです。
- まず、どこが違うのかを具体的にする。業務量なのか、仕事の中身なのか、時間なのか
- 上司や、教えてくれている人に相談する。「聞いていたのは◯◯でしたが、いまは△△です」と、事実で伝える
- 給与や休みなど、条件そのものが違う場合は、内定のときに受け取った書面を見直す(転職活動の進め方 第6章)
それでもしんどさが続くときの考え方は、次の第5章で扱います。
この章のまとめ
- 中途はできる前提で見られやすい。最初の1か月は聞ける期間だと割り切る
- 1か月目は覚える(人・流れ・言葉)、2か月目は任されたことを確実に、3か月目は売場の工夫を出す
- 優秀な先輩の仕事を真似ることから始める。工夫を足すのは、真似ができてから
- 人間関係は自分から作りにいく。出来上がった輪に入るのは勇気がいるが、ここは踏ん張りどころ
- 分からない言葉はその日にメモして、まとめて調べる
- 聞くときは、調べた範囲・分からないこと1つ・期限を添える
- 手応えは自分で作る。週の終わりにできるようになったことを3つ書く
- 比べる相手は、先月の自分
- 聞いていた話と違ったら、小さいうちに、事実で相談する
次の章では、しんどくなったときの考え方を扱います。