移ったあとの戸惑いの多くは、仕事が難しいからではなく、仕事の形が違うから起きます。
形の違いは、先に知っておけます。知っていれば、入ってから戸惑ったときに「聞いていたとおりだ」と思えます。それだけで、受け止め方がずいぶん変わります。
変わる5つのこと
1. 時間の流れ
売場では、その日のことはその日に終わりました。 開店して、接客して、締めて、帰る。売上もその日に出ました。
オフィスの仕事は、ひとつの仕事が何日も、何週間も続きます。 今日やったことの結果が出るのは、来週かもしれないし、数か月後かもしれません。法人営業なら、動き出してから決まるまで数か月かかることもあります。
一日が終わっても、仕事が終わった感じがしない。 これは、多くの方が最初に感じる違いです。
2. 評価の見え方
売場では、頑張ったことが数字ですぐ見えました。 個人売上、達成率、客単価。
オフィスの仕事、とくに事務やサポートの仕事は、うまく回っているときほど、誰にも気づかれません。 ミスなく、遅れなく、止まらずに回っていること自体が成果だからです。
評価は、上司との面談や、半年・1年ごとの評価の場で伝えられることが多くなります。毎日の手応えは、自分で作る必要があります(第4章)。
3. 相手
売場の相手は、初対面のお客様でした。その場で出会って、その場で終わります。
オフィスの相手は、同じ社内の人や、取引先の人です。同じ人と、長く付き合います。 一度の印象より、積み重ねが効きます。
そして、仕事の多くは社内の調整です。誰に何を伝えれば話が進むのか。それを覚えることが、最初の仕事のひとつになります。
4. 道具
売場の道具は、レジ、在庫のシステム、電話でした。
オフィスでは、パソコンが一日の中心になります。表計算ソフト、メール、社内のチャット、オンライン会議。会社によって使うものが違うので、全部を知っている必要はありません。入ってから、その会社のものを覚えます。
5. 言葉
社内の用語、業界の言葉、横文字の職種名。最初は、会議で何を話しているのか分からないことがあります。
新卒1年で広告営業に移った方は、転職活動のときから、こう感じていたそうです。
カスタマーサポートって何とか、コールセンターのSVとか受けたんですけど、SVって何みたいな、そんなところから
分からない言葉が多いのは、能力の問題ではありません。 知らない世界に入れば、誰でもそうなります。覚え方は第4章で扱います。
現場の仕事に移る場合
製造業や物流のように、現場で体を動かす仕事に移る場合は、少し事情が違います。
時間の流れや道具の変化は、オフィスほど大きくありません。代わりに、安全や品質のルールが加わります。決められた手順を守ることが、何より優先される世界です。
売場で、開店前の準備や棚卸しを決まった手順でこなしてきた経験は、ここで効きます。
変わらないこと
変わることばかり書きましたが、変わらないこともあります。
- 人の困りごとを聞くこと。 お客様が社内の人や取引先に変わるだけです
- 段取りを組むこと。 開店前の準備、セールの仕込み、シフトの組み立て。オフィスの仕事も、段取りでできています
- 数字を気にすること。 売場で毎日見ていた予算や達成率の感覚は、どの仕事でも通じます
- 相手を見て、出し方を変えること。 急いでいる人には短く、迷っている人には比べる材料を。社内でも同じです
新卒1年で広告営業に移った方は、電話をたくさんかける仕事に移っても、接客をしていたぶん、ハードルが高くなかったと話していました。
人と喋ることにそんなに抵抗がないっていうのは、今も引き続きで、結構大きかった
売場で毎日やっていたことは、形を変えて残ります。
手応えが遅くなることに、備えておく
5つの変化のなかで、いちばん気持ちに響くのは、手応えが遅くなることだと思います。
売場では、声かけを変えればその日のうちに結果が出ました。オフィスでは、そうはいきません。頑張っているのに、何も進んでいない気がする時期が来ます。
これは、あなたの力が足りないからではなく、仕事の周期が違うからです。先に知っておけば、その時期が来ても慌てずに済みます。
行き先ごとの「変わること」は、それぞれの記事にも書いています。
- アパレル販売から事務へ(評価の見えにくさ、手応え)
- アパレル販売員がECに移るには(数字の単位、反応の遅さ)
- 法人営業への転職で最初に困ること(成果が出るまでの時間)
この章のまとめ
- 戸惑いの多くは、仕事が難しいからではなく、仕事の形が違うから起きる
- 変わるのは、時間の流れ・評価の見え方・相手・道具・言葉の5つ
- 現場の仕事に移る場合は、安全と品質のルールが加わる
- 人の困りごとを聞く、段取り、数字の感覚、相手を見ることは変わらない
- いちばん響くのは手応えが遅くなること。仕事の周期の違いだと先に知っておく
次の章では、入社する前にできることを扱います。